コーヒーをもっと深く知りたいと思ったとき、豆の産地や焙煎度を調べるだけでなく、実際に飲み比べてみることはとても大きな学びになります。その飲み比べを、専門的な方法でありながら一般の人にも開かれた形で体験できる場が「パブリックカッピング」です。
カッピングとは、コーヒーの香りや味を確認するためのテイスティング方法です。ロースターやバリスタ、品質評価に関わる人たちが、豆の個性や品質を見極めるために行います。パブリックカッピングは、そのカッピングを一般の参加者にも公開し、みんなで同じコーヒーを味わいながら感じたことを共有するイベントです。
初めて聞くと、少し敷居が高く感じるかもしれません。「味の表現を知らないと参加できないのでは」「専門家のように評価しなければいけないのでは」と不安になる人もいるでしょう。しかし実際には、パブリックカッピングは初心者でも参加しやすい場です。大切なのは、正解を当てることではなく、自分が感じた香りや味に意識を向けることです。
この記事では、パブリックカッピングとは何か、通常のカッピングとの関係、開催される場所、基本的な流れ、初めて参加するときの準備までをわかりやすく解説します。コーヒーの味の違いをもっと知りたい人、ロースターやカフェのイベントに参加してみたい人、自分の好みを見つけたい人に役立つ内容です。
第1章:パブリックカッピングとは何か
コーヒーをみんなで味わう公開型のテイスティング
パブリックカッピングとは、コーヒーのカッピングを一般の参加者に向けて公開するイベントや体験会のことです。カッピングは本来、コーヒー豆の品質や特徴を確認するために行われる専門的なテイスティング方法ですが、パブリックカッピングではその方法を使いながら、参加者が一緒にコーヒーを味わいます。
カフェやロースターで行われるパブリックカッピングでは、複数のコーヒー豆が並び、それぞれの香りや味を比べます。産地、品種、精製方法、焙煎度の違いを一度に体験できるため、普段の一杯では気づきにくい違いが見えてきます。
たとえば、同じ浅煎りでもエチオピアとコロンビアでは香りの印象が違います。ナチュラル精製とウォッシュド精製でも、果実感やクリーンさの出方が変わります。こうした違いを、説明だけでなく自分の舌と鼻で確かめられるのがパブリックカッピングの魅力です。
また、パブリックカッピングは静かに評価するだけの場ではありません。主催者の説明を聞いたり、他の参加者の感想を聞いたりしながら、コーヒーの見方を広げていく場でもあります。
専門家だけでなく一般の人も参加できる場
カッピングという言葉には、専門的な印象があります。実際、コーヒー業界では、豆の品質確認や買い付け、焙煎チェックなどにカッピングが使われます。しかし、パブリックカッピングは専門家だけのものではありません。
多くのパブリックカッピングは、一般のコーヒー好きにも開かれています。初心者向けに説明をしながら進めるイベントも多く、カッピングスプーンの使い方や香りの確認方法をその場で教えてもらえることがあります。味の表現に慣れていなくても、参加すること自体に問題はありません。
むしろ、初心者だからこそ得られる発見もあります。普段は「酸味がある」「苦い」「飲みやすい」といった大まかな印象で飲んでいたコーヒーが、カッピングを通して「柑橘のような酸味」「ナッツのような香ばしさ」「紅茶のような軽さ」といった形で感じられるようになるかもしれません。
専門的な知識がなくても、香りや味に意識を向けるだけで、コーヒーの楽しみ方は広がります。パブリックカッピングは、その入口としてとてもよい機会です。
味の正解を当てるより、感じ方を共有する体験
パブリックカッピングで大切なのは、味の正解を当てることではありません。コーヒーのテイスティングには、たしかに評価項目や専門用語があります。しかし、一般参加型のカッピングでは、まず自分がどう感じたかを大切にすることが重要です。
同じコーヒーを飲んでも、人によって感じ方は少しずつ違います。ある人はベリーのような香りを感じ、別の人はワインのような印象を受けるかもしれません。ある人には明るい酸味に感じられ、別の人には少しシャープに感じられることもあります。
こうした違いは、間違いではありません。味覚や嗅覚は人によって経験や記憶と結びついているため、表現が変わるのは自然なことです。パブリックカッピングでは、他の人の表現を聞くことで、自分では気づかなかった香りや味に意識が向くことがあります。
「自分にはそこまでわからない」と思っても大丈夫です。最初は、好きか苦手か、明るいか重いか、甘い印象があるかどうか、といった簡単な感想で十分です。感じ方を共有することが、パブリックカッピングのいちばんの面白さです。

第2章:カッピングの基本を知る
カッピングはコーヒーの品質を評価する方法
カッピングは、コーヒーの品質や特徴を確認するためのテイスティング方法です。コーヒー業界では、生豆の買い付け、焙煎後の品質チェック、産地やロットの比較など、さまざまな場面で使われています。
カッピングでは、できるだけ条件をそろえて複数のコーヒーを比較します。抽出器具や淹れ方による差を少なくし、豆そのものの特徴を見やすくするためです。たとえば、同じ粉量、同じ湯量、同じ湯温、同じ時間で抽出し、香りや味を確認します。
通常のハンドドリップでは、注ぎ方や抽出技術によって味が変わります。もちろんそれもコーヒーの楽しみですが、豆の評価をする場合には、抽出技術の差をできるだけ取り除く必要があります。カッピングは、そのために考えられた方法です。
パブリックカッピングでも、この基本は同じです。参加者は、同じ条件で用意されたコーヒーを比べることで、産地や品種、精製方法、焙煎の違いを感じ取りやすくなります。
抽出方法をそろえて豆の個性を見る
カッピングでは、カップに挽いたコーヒー粉を入れ、そこへお湯を注いで抽出します。ペーパーフィルターやドリッパーを使わず、粉を直接お湯に浸す形です。一定時間が経ったら、表面に浮いた粉の層を崩し、香りを確認し、その後にスプーンで液体をすくって味を見ます。
この方法の特徴は、抽出条件をそろえやすいことです。ドリップのように注ぎ方で大きく差が出にくいため、豆同士の比較に向いています。もちろん挽き目や湯温、抽出時間などは重要ですが、イベントでは主催者があらかじめ整えてくれることがほとんどです。
豆の個性を見るためには、できるだけ公平な条件で比べることが大切です。ある豆だけ濃く抽出され、別の豆だけ薄く抽出されてしまうと、本来の違いがわかりにくくなります。カッピングは、そのズレを少なくするための方法といえます。
パブリックカッピングに参加すると、普段の淹れ方では気づきにくい香りや味の違いに出会えることがあります。豆の持つ個性をより直接的に感じられるのが、カッピングの面白さです。
香り・酸味・甘さ・質感・後味を確認する
カッピングでは、いくつかの観点からコーヒーを見ていきます。代表的なのは、香り、酸味、甘さ、質感、後味です。専門的な評価ではさらに細かい項目がありますが、初心者はまずこのあたりを意識するとわかりやすいでしょう。
香りは、粉の状態の香りと、お湯を注いだ後の香りで印象が変わります。粉の香りは「ドライ」と呼ばれ、お湯を注いだ後に表面の層を崩すときの香りは特に印象的です。ここでフルーツ、花、ナッツ、チョコレート、スパイスなどの香りを感じることがあります。
酸味は、すっぱいかどうかだけでなく、明るさや質を見る項目です。柑橘のように爽やかな酸味もあれば、ベリーのように丸みのある酸味、りんごのような軽やかな酸味もあります。
甘さは、砂糖のような甘みではなく、後味や香りの中に感じる甘い印象です。質感は、口当たりや液体の重さを指します。軽やかなもの、なめらかなもの、しっかりした厚みのあるものなどがあります。後味は、飲み込んだあとに残る印象です。すっきり消えるものもあれば、甘さや香りが長く続くものもあります。
パブリックカッピングでは、すべてを完璧に言葉にする必要はありません。まずは「香りが華やか」「酸味が明るい」「後味が甘い」といった自分なりの表現から始めるとよいでしょう。

第3章:パブリックカッピングが行われる場所
ロースターやカフェで開催されることが多い
パブリックカッピングは、ロースターやスペシャルティコーヒーを扱うカフェで開催されることが多いイベントです。新しく入荷した豆の紹介、焙煎した豆の飲み比べ、産地ごとの比較など、テーマを決めて行われます。
ロースターで開催される場合は、焙煎士やスタッフから豆の情報を直接聞けることがあります。どこの国の豆なのか、どのような精製方法なのか、どんな香味を目指して焙煎したのかを知ることで、カッピングの体験がより深くなります。
カフェで開催される場合は、より気軽な雰囲気のこともあります。普段その店で提供している豆を飲み比べたり、季節限定の豆を紹介したりする場として使われます。常連客向けの小規模な会から、初心者歓迎のイベントまでさまざまです。
参加方法は、お店のSNSやウェブサイトで告知されることが多いです。予約制の場合もあれば、当日参加できる場合もあります。気になるロースターやカフェがあるなら、イベント情報をチェックしてみるとよいでしょう。
コーヒーイベントや展示会での開催
パブリックカッピングは、コーヒーイベントや展示会でも行われます。複数のロースターや生産者、輸入業者が集まるイベントでは、さまざまな豆を一度に体験できる機会があります。
こうした場では、普段なかなか飲めない産地やロットのコーヒーに出会えることがあります。生産者の取り組みを紹介するカッピング、品種違いの比較、精製方法違いの比較、コンペティション入賞豆の試飲など、テーマ性のある内容も多く見られます。
展示会や大きなイベントでは、参加者が多くなるため、短時間で進行することもあります。説明を聞きながら少しずつ味を見る形式や、自由にカップを回って試飲する形式など、運営方法はイベントによって異なります。
大規模なイベントのパブリックカッピングは、情報量が多く、最初は少し圧倒されるかもしれません。ただ、短時間で多くのコーヒーに触れられるため、自分の好みを探すにはとてもよい機会です。気になった豆やロースターをメモしておくと、後から購入するときの参考になります。
産地紹介や新豆お披露目の場としても使われる
パブリックカッピングは、産地紹介や新豆のお披露目の場としても使われます。たとえば、エチオピアの新しいロット、コロンビアの特定農園の豆、パナマのゲイシャ種、ブラジルのナチュラル精製など、テーマを絞って紹介されることがあります。
こうしたカッピングでは、単に味を比べるだけでなく、その豆がどのような背景を持っているのかも知ることができます。生産地の標高、品種、精製方法、生産者の取り組み、輸入までの流れなどを聞くことで、一杯のコーヒーがより立体的に見えてきます。
新豆のお披露目では、焙煎士がその豆をどのように焙煎したのか、どんな香味を感じているのかを話してくれることもあります。参加者はその説明を聞いたうえで実際に味わうため、豆の特徴を理解しやすくなります。
パブリックカッピングは、コーヒーの背景を知る場でもあります。産地や生産者の情報を聞きながら味わうと、ただの飲み比べではなく、コーヒーがどこから来たのかを感じる体験になります。

第4章:パブリックカッピングの一般的な流れ
受付・説明・豆の紹介
パブリックカッピングは、まず受付や参加者の集合から始まります。予約制の場合は名前を伝え、参加費がある場合は支払いを済ませます。イベントによっては、簡単な資料やメモ用紙が配られることもあります。
始まると、主催者からカッピングの流れや注意点の説明があります。初めての人がいる場合は、スプーンの使い方、香りの確認方法、味を見るタイミングなどを丁寧に説明してくれることが多いです。
その後、今回カッピングする豆の紹介があります。産地、農園、品種、精製方法、焙煎度、ロースターの意図などが説明されます。豆の情報を先に聞く場合もあれば、先入観を避けるためにブラインドで進める場合もあります。
初心者は、すべてを覚えようとしなくても大丈夫です。気になる情報だけメモしておき、実際に味わった印象と照らし合わせると、理解しやすくなります。パブリックカッピングは、説明と体験がつながるところに面白さがあります。
ドライ香とクラストの香りを確認する
カッピングでは、まず粉の状態の香りを確認します。これをドライ香、またはドライアロマと呼ぶことがあります。カップに入った挽きたてのコーヒー粉に顔を近づけ、香りを感じます。
この段階では、豆の香りが比較的はっきり出ます。ナッツのような香り、果実のような香り、花のような香り、チョコレートのような香りなど、豆によって印象が異なります。最初は言葉にできなくても、「明るい」「甘い」「香ばしい」など簡単な印象で十分です。
次に、お湯を注ぎます。お湯を注ぐと、粉が浮いて表面に層ができます。この層をクラストと呼びます。一定時間が経ったあと、スプーンでクラストを崩すと、閉じ込められていた香りが一気に立ち上がります。この瞬間の香りは、カッピングの中でも特に印象的です。
パブリックカッピングでは、順番にカップへ近づいて香りを確認します。周りの人の動きに合わせながら、焦らず香りを感じてみましょう。香りは時間とともに変化するため、最初の印象と少し冷めてからの印象が違うこともあります。
ブレイク・スプーンでのテイスティング
クラストを崩す作業を「ブレイク」と呼びます。スプーンで表面の粉の層を静かに押し分けると、香りが立ち上がります。このときの香りを確認したあと、表面に残った粉や泡を取り除き、液体を味わえる状態にします。
テイスティングでは、カッピングスプーンでコーヒーをすくい、空気と一緒に吸い込むように口に入れます。音を立てることに少し驚くかもしれませんが、カッピングでは香りを口の中から鼻へ広げるために、すするように飲むことがあります。
ただし、パブリックカッピングでは無理に大きな音を立てる必要はありません。主催者の説明に合わせて、自分のできる範囲で試せば大丈夫です。大切なのは、口の中に広がる香り、酸味、甘さ、質感、後味を感じることです。
コーヒーは冷めるにつれて味の印象が変わります。熱いときにはわかりにくかった酸味や甘さが、少し冷めるとはっきりすることがあります。そのため、カッピングでは時間をおいて何度か味を見ることがあります。変化を感じることも、パブリックカッピングの楽しみのひとつです。

第5章:初めて参加するときの持ち物と準備
基本的には手ぶらで参加できる
パブリックカッピングは、基本的には手ぶらで参加できます。カッピングに必要なカップ、スプーン、豆、お湯、メモ用紙などは、主催者が用意してくれることがほとんどです。
初めて参加する場合は、特別な道具を持っていく必要はありません。メモを取りたい人は、自分のノートやペンを持っていくと便利です。スマートフォンでメモを取る人もいますが、会場によっては写真撮影やスマートフォンの使用にルールがある場合があります。
服装も、基本的には普段のカフェに行くような格好で問題ありません。ただし、香りを確認するイベントなので、香水や強い柔軟剤などは避けたほうがよいでしょう。周りの参加者の香りの感じ方にも影響するためです。
参加前に、イベントの告知文をよく確認しておくと安心です。参加費、開始時間、所要時間、定員、キャンセルルール、初心者歓迎かどうかなどを見ておくと、当日落ち着いて参加できます。
香水や強い香りは避ける
カッピングでは、香りを確認することがとても重要です。そのため、参加するときは香水、強い香りのヘアスタイリング剤、香りの強いハンドクリーム、柔軟剤などは控えるのがおすすめです。
コーヒーの香りは繊細です。花のような香り、柑橘のような香り、チョコレートのような香りなどを感じ取るには、周囲の香りが強すぎない環境が必要です。強い香りを身につけていると、自分だけでなく周りの人の感じ方にも影響してしまうことがあります。
また、直前に香りの強い食事をするのも避けたほうがよい場合があります。にんにく、スパイス、ミント、強い甘味などは、味覚や嗅覚に影響することがあります。厳密に制限する必要はありませんが、できるだけ自然な状態で参加すると、コーヒーの違いを感じやすくなります。
パブリックカッピングは、参加者みんなで香りを共有する場でもあります。少し気をつけるだけで、自分も周りもより楽しみやすくなります。
味の言葉を知らなくても参加できる
初めてパブリックカッピングに参加するとき、多くの人が不安に感じるのが「味をうまく言葉にできるか」という点です。プロのように、フローラル、シトラス、ベリー、カカオ、ハーバルなどの表現を使えないといけないと思うかもしれません。
しかし、最初から専門的な言葉を使う必要はありません。むしろ、最初は自分の言葉で感じることが大切です。「明るい」「軽い」「甘い感じがする」「苦味が少ない」「後味が長い」「飲みやすい」など、素直な表現で十分です。
他の参加者や主催者の言葉を聞くうちに、「この香りは柑橘っぽいと言えるのか」「この甘さはキャラメルに近いのか」と少しずつ表現の引き出しが増えていきます。味の言葉は、経験を重ねながら身につくものです。
パブリックカッピングは、評価される場ではなく、学ぶ場です。わからないことがあれば質問してもよいですし、無理に発言しなくても構いません。まずは香りを感じ、味の違いを楽しむことから始めてみましょう。

第6章:パブリックカッピングで見るポイント
香りの第一印象
パブリックカッピングでまず意識したいのは、香りの第一印象です。コーヒーは味だけでなく、香りの印象によって感じ方が大きく変わります。粉の状態、お湯を注いだ直後、クラストを崩した瞬間、少し冷めてからでは、それぞれ香りの表情が変わります。
最初は、細かい香りの名前を当てようとしなくても大丈夫です。「甘い香り」「花のような香り」「果物っぽい香り」「香ばしい香り」「少しスパイシー」など、自分が感じた言葉でメモしてみましょう。正確な表現よりも、第一印象を逃さないことが大切です。
香りの印象は、豆の産地や品種、精製方法、焙煎度によって変わります。たとえば、ナチュラル精製の豆では熟した果実のような香りを感じることがあり、ウォッシュド精製の豆ではすっきりした花や柑橘のような印象が出ることがあります。深煎りではチョコレートやナッツ、カラメルのような香ばしさが強くなることもあります。
パブリックカッピングでは、他の参加者がどのような香りを感じたかを聞くのも学びになります。自分では「甘い」としか思わなかった香りを、誰かが「はちみつっぽい」「赤い果物のよう」と表現することがあります。その言葉をきっかけに、もう一度香りを確認すると、新しい印象に気づけることがあります。
酸味・甘さ・苦味のバランス
コーヒーの味を見るときは、酸味、甘さ、苦味のバランスに注目します。どれかひとつだけを見るのではなく、口の中でどうまとまっているかを感じることが大切です。
酸味は、単に「すっぱい」という意味ではありません。明るさ、爽やかさ、果実感、輪郭をつくる要素として捉えるとわかりやすくなります。柑橘のようにシャープな酸味もあれば、りんごやベリーのように丸みのある酸味もあります。
甘さは、砂糖のような直接的な甘みではなく、香りや後味の中に感じる甘い印象です。はちみつ、キャラメル、熟した果物、チョコレートのように感じることがあります。良いコーヒーほど、酸味や苦味の中に甘さが感じられ、飲みやすい印象になることがあります。
苦味は、焙煎度や抽出条件によって変わります。心地よい苦味は、味に厚みや締まりを与えます。一方で、焦げたような苦味や渋さが強いと、後味が重く感じられることがあります。
パブリックカッピングでは、複数の豆を比べることで、このバランスの違いがわかりやすくなります。「この豆は酸味が明るい」「こちらは甘さが残る」「これは苦味がしっかりしている」と比べるうちに、自分の好みも少しずつ見えてきます。
余韻や口当たりの違い
カッピングでは、飲んだ瞬間の味だけでなく、余韻や口当たりも大切なポイントです。余韻とは、コーヒーを飲み込んだあとに口の中や鼻に残る香りや味の印象です。すぐに消えるものもあれば、甘さや香りが長く続くものもあります。
後味がきれいなコーヒーは、飲み終わったあとに心地よい印象が残ります。反対に、渋みや焦げ感、ざらつきが残ると、少し重たく感じることがあります。余韻を見ることで、そのコーヒーの完成度や自分との相性がわかりやすくなります。
口当たりは、液体が口の中でどう感じられるかです。軽やかで紅茶のようにすっと入るもの、なめらかで丸みがあるもの、しっかりした厚みがあるものなど、コーヒーによって違います。専門的には「ボディ」や「マウスフィール」と呼ばれることもあります。
最初は、口当たりを言葉にするのが難しいかもしれません。その場合は、「軽い」「なめらか」「重い」「さらっとしている」「少しざらつく」など、身近な表現で構いません。大切なのは、自分の感覚を観察することです。
パブリックカッピングでは、温度が下がるにつれて余韻や口当たりの印象が変わることもあります。熱いとき、少し冷めたとき、さらに冷めたときで、同じコーヒーが違って感じられることがあります。その変化を追うのも、カッピングの楽しみです。

第7章:参加するときのマナー
スプーンの扱いと衛生面に気をつける
パブリックカッピングでは、カッピングスプーンを使ってコーヒーを味わいます。複数の参加者が同じカップを回ることもあるため、衛生面への配慮がとても大切です。
多くの会場では、スプーンをすすぐためのカップやお湯、吐き出し用のカップ、使い終わったスプーンを置く場所などが用意されています。主催者の説明をよく聞き、指定された手順に従いましょう。
一般的には、スプーンをカップに入れる前にすすぎ、コーヒーをすくったら直接口をつけるのではなく、必要に応じて別のスプーンや方法を使う場合もあります。イベントによって衛生ルールは異なるため、自己判断で進めず、会場のルールに合わせることが大切です。
また、カップの前で長く立ち止まりすぎないこともマナーです。他の参加者も香りや味を確認したいので、譲り合いながら進めましょう。わからないことがあれば、遠慮せずスタッフに確認すれば大丈夫です。
他の参加者の感想を否定しない
パブリックカッピングでは、参加者同士で感想を共有することがあります。このとき大切なのは、他の人の感じ方を否定しないことです。
コーヒーの味や香りは、経験、好み、体調、記憶によって感じ方が変わります。同じコーヒーを飲んでも、ある人は「ベリーのよう」と感じ、別の人は「ワインっぽい」と感じるかもしれません。どちらかが間違いというわけではありません。
味の表現は、正解を競うものではなく、感じたことを共有するための言葉です。自分とは違う表現を聞いたときは、「そういう感じ方もあるのか」と受け止めると、味の見方が広がります。
初心者が感想を言いにくくなるような雰囲気を作らないことも大切です。「そんな味はしない」「それは違う」と言ってしまうと、せっかくの学びの場が緊張したものになってしまいます。パブリックカッピングは、参加者みんなでコーヒーを楽しむ場です。お互いの言葉を尊重することで、よりよい体験になります。
写真撮影やメモは主催者のルールに合わせる
パブリックカッピングでは、写真を撮ったり、メモを取ったりしたくなる場面が多くあります。並んだカップ、豆の袋、説明資料、会場の雰囲気など、記録しておきたいものがたくさんあるかもしれません。
ただし、写真撮影やSNS投稿については、主催者のルールに従いましょう。会場によっては撮影が自由な場合もありますが、参加者の顔が写らないよう配慮が必要なこともあります。資料や豆の情報が非公開の場合もあるため、撮影前に確認しておくと安心です。
メモを取ることは、カッピングの学びを深めるのに役立ちます。香りの印象、味の違い、好きだった豆、気になった説明などを書いておくと、後から振り返りやすくなります。ただし、メモに集中しすぎて香りや味を感じる時間が減ってしまうともったいないので、簡単な言葉で残すくらいがちょうどよいでしょう。
写真やメモは、自分の体験を深めるためのものです。周囲の参加者や主催者への配慮を忘れず、気持ちよく楽しめる形で記録しましょう。

第8章:パブリックカッピングの楽しみ方
産地や品種の違いを比べる
パブリックカッピングの大きな楽しみは、産地や品種の違いを比べられることです。普段は一杯ずつ飲んでいると気づきにくい違いも、同じ条件で並べて味わうとはっきり感じられることがあります。
たとえば、エチオピアのコーヒーは華やかで果実感のある香りが出やすく、ブラジルのコーヒーはナッツやチョコレートのような穏やかな甘みが感じられることがあります。コロンビアはバランスのよい酸味と甘さ、ケニアは明るく力強い酸味が印象的なこともあります。
品種によっても味わいは変わります。ゲイシャ種のように華やかな香りが特徴的なものもあれば、ブルボン種のように甘みや丸みを感じやすいものもあります。もちろん、産地や品種だけで味が決まるわけではなく、精製方法や焙煎度も大きく関わります。
パブリックカッピングでは、こうした違いを一度に体験できます。説明を聞きながら飲み比べることで、名前だけ知っていた産地や品種が、実際の味の記憶として残りやすくなります。
自分の好みを見つける
パブリックカッピングは、自分の好みを見つける場としても役立ちます。コーヒーを買うとき、産地名や焙煎度、味の説明を見ても、どれを選べばよいかわからないことがあります。カッピングで複数の豆を比べると、自分がどんな味を好むのかが少しずつ見えてきます。
たとえば、明るい酸味が好きなのか、チョコレートのような甘さが好きなのか、すっきりした後味が好きなのか、しっかりしたコクが好きなのか。飲み比べることで、好みの傾向が具体的になります。
メモを取るときは、難しい言葉を使わなくても構いません。「好き」「少し苦手」「香りがよい」「後味が甘い」「酸味が強い」など、自分にわかる言葉で残しておくと十分です。後から豆を買うときに、そのメモが役立ちます。
自分の好みは、経験とともに変わることもあります。最初は深煎りが好きだった人が、カッピングを通して浅煎りの果実感に興味を持つこともあります。パブリックカッピングは、新しい好みに出会うきっかけにもなります。
プロの言葉から味の表現を学ぶ
パブリックカッピングでは、ロースターやバリスタ、コーヒーに詳しいスタッフが香味の説明をしてくれることがあります。その言葉を聞くことも、大きな学びになります。
プロは、香りや味の印象を具体的な言葉にするのが得意です。「オレンジのような酸味」「ブラウンシュガーのような甘さ」「紅茶のような質感」「カカオのような余韻」など、普段なら見過ごしてしまう印象を言葉にしてくれます。
その表現を聞いたうえでもう一度味わうと、「たしかにそう感じるかもしれない」と気づくことがあります。もちろん、必ず同じように感じる必要はありません。自分には違う印象に感じられることもあります。それも大切な体験です。
味の表現は、覚えるものというより、経験を通して増えていくものです。プロの言葉を借りながら、自分の感覚と照らし合わせていくことで、少しずつ表現の幅が広がります。パブリックカッピングは、コーヒーの味を言葉にする練習の場にもなります。

第9章:パブリックカッピングに参加するメリット
コーヒー選びの基準が増える
パブリックカッピングに参加すると、コーヒー選びの基準が増えます。これまでは「苦いものが好き」「酸味は苦手」「深煎りが好き」といった大まかな基準だけで選んでいた人も、カッピングを通してより細かい違いに気づけるようになります。
たとえば、酸味が苦手だと思っていた人でも、柑橘のように爽やかな酸味ならおいしく感じるかもしれません。苦味が好きだと思っていた人でも、焦げた苦味ではなく、チョコレートのようなビター感が好きなのだと気づくこともあります。
また、産地や精製方法による違いを体験すると、豆を選ぶときの見方が変わります。エチオピア、ケニア、コロンビア、ブラジルといった産地名や、ナチュラル、ウォッシュド、ハニーといった精製方法が、単なる情報ではなく味の記憶とつながるようになります。
コーヒー選びは、知識だけでは難しいものです。実際に飲んで比べることで、自分の基準が育っていきます。パブリックカッピングは、その基準づくりにとても役立つ体験です。
ロースターや生産地への理解が深まる
パブリックカッピングでは、コーヒー豆の背景を知ることができます。どの国のどの地域で育ったのか、どんな品種なのか、どのように精製されたのか、どんな意図で焙煎されたのかを聞くことで、一杯の見え方が変わります。
ロースターが開催するカッピングでは、焙煎の狙いや豆の特徴を直接聞けることがあります。「この豆の明るい酸味を活かしたかった」「甘さが出るように焙煎した」「余韻のきれいさを大切にした」など、作り手の考えを知ると、飲んだときの印象もより深くなります。
また、生産地の話を聞くことで、コーヒーが農産物であることを実感できます。標高、気候、土壌、収穫、精製、乾燥、輸送など、多くの工程を経て一杯のコーヒーが届いています。カッピングは、その背景を味と結びつける場でもあります。
コーヒーをただ消費するだけでなく、背景ごと楽しめるようになると、豆を選ぶ時間も豊かになります。パブリックカッピングは、ロースターや生産地への理解を深める入口になります。
コーヒー仲間やお店とのつながりができる
パブリックカッピングに参加すると、同じようにコーヒーに興味を持つ人たちと出会えることがあります。普段は一人でコーヒーを楽しんでいる人にとっても、感想を共有できる場は新鮮です。
同じコーヒーを飲みながら、「これが好きだった」「この香りが面白い」「酸味の違いがわかった」などと話すことで、コーヒーの楽しみ方が広がります。他の人の好みや表現を聞くと、自分とは違う視点に気づけることもあります。
また、開催しているカフェやロースターとの距離も近くなります。スタッフに質問したり、気に入った豆について詳しく聞いたりすることで、次に豆を買うときの相談もしやすくなります。
パブリックカッピングは、単なる試飲会ではなく、人とコーヒーがつながる場でもあります。コーヒーを通じてお店や人との関係ができると、日常の一杯も少し特別なものになります。

第10章:まとめ:パブリックカッピングはコーヒーの世界を広げる入口
初心者でも参加しやすい学びの場
パブリックカッピングは、コーヒーの専門家だけでなく、一般の人も参加できる公開型のテイスティングです。カッピングという言葉には専門的な印象がありますが、初心者でも参加しやすいイベントは多くあります。
大切なのは、味の正解を当てることではありません。自分が感じた香りや味に意識を向け、他の人の感想を聞きながら、少しずつコーヒーの見方を広げていくことです。
初めての参加では、細かい表現ができなくても大丈夫です。「好き」「香りがよい」「酸味が明るい」「後味が甘い」など、自分の言葉で感じたことを残すだけでも十分な学びになります。
味の違いを体験で理解できる
パブリックカッピングの魅力は、コーヒーの違いを実際に体験できることです。産地、品種、精製方法、焙煎度の違いは、説明を読むだけではなかなか実感しにくいものです。しかし、同じ条件で飲み比べると、違いがはっきり感じられることがあります。
香りの華やかさ、酸味の明るさ、甘さの残り方、口当たりの軽さ、後味の長さ。こうした要素を比べることで、コーヒーの世界がより立体的に見えてきます。
カッピングを重ねると、豆を選ぶときの基準も増えていきます。自分がどんな味を好むのか、どの産地に惹かれるのか、どんな焙煎度が合うのかが少しずつわかるようになります。
一杯の背景まで楽しめるようになる
パブリックカッピングに参加すると、コーヒーの味だけでなく、その背景にも目が向くようになります。どこの国で育った豆なのか、どんな人が作ったのか、どのように精製され、どんな意図で焙煎されたのか。そうした背景を知ることで、一杯のコーヒーはより深く楽しめるようになります。
普段のコーヒーも、少し意識して飲むだけで印象が変わります。香りを確認してから飲む、冷めたときの味を見てみる、産地や精製方法をチェックしてみる。こうした小さな習慣が、コーヒーの楽しみを広げてくれます。
パブリックカッピングは、コーヒーをもっと知りたい人にとって、とてもよい入口です。初心者でも参加でき、味の違いを体験しながら、自分の好みやコーヒーの背景を学べます。気になるカフェやロースターで開催されていたら、ぜひ一度参加してみるとよいでしょう。

