「アルゼンチンのコーヒー豆」と聞くと、ブラジルやコロンビアと同じように、その国で栽培された豆を想像するかもしれません。

しかし、アルゼンチンは主要なコーヒー生産国ではありません。アルゼンチンのブランドや現地で焙煎された商品であっても、使われている豆はブラジル産やコロンビア産などの場合があります。

アルゼンチンコーヒーを選ぶときは、「豆が育った国」と「焙煎・製造された国」を分けて確認することが大切です。

さらに、アルゼンチンでは通常焙煎の「トスタード」と、糖類を加えて焙煎する「トラード」が流通しています。この違いを知らずに買うと、想像より苦く香ばしいと感じることがあります。

この記事では、生産の実態、味を決める要素、トラードとの違い、初心者向けの選び方と淹れ方まで順番に解説します。

第1章 アルゼンチンのコーヒー豆とは?

「アルゼンチンコーヒー」という言葉には、ひとつだけの決まった意味があるわけではありません。市場では、おもに次の3つを指して使われます。

  • アルゼンチン国内で栽培・収穫されたコーヒー豆
  • 輸入した生豆をアルゼンチン国内で焙煎・製造した商品
  • アルゼンチンで親しまれている焙煎方法や飲み方

1つ目のアルゼンチン産コーヒー豆は、一般的な流通商品として見つけるのが難しいものです。小規模な栽培情報と、産地名や農園名を付けて継続的に販売できる商業生産は分けて考える必要があります。

2つ目は、ブラジルやコロンビアなどから輸入した生豆をアルゼンチンで焙煎した商品です。パッケージにアルゼンチン企業の住所が書かれていても、それだけで豆の原産国がアルゼンチンとは判断できません。

3つ目は、現地のカフェ文化や焙煎方法を含めた表現です。特に購入前に知っておきたいのが、糖類を加えて焙煎するトラードです。

初心者は、ブランドの国籍よりも、パッケージの原産国表示と焙煎方法を先に確認しましょう。

アルゼンチンのコーヒー市場でコーヒー豆を選ぶ人々

第2章 アルゼンチンではコーヒー豆が生産されている?

アルゼンチンは南北に長く、亜熱帯に近い北部から寒冷な南部まで幅広い気候を持っています。しかし、南米にあるからといって、国土のどこでもコーヒーを安定して栽培できるわけではありません。

アラビカ種の栽培には、温暖な気候、適度な雨量、水はけのよい土壌、霜の少なさなどが必要です。標高だけでなく、年間の気温や乾季・雨季のバランスも品質と収穫量に影響します。

北部にも大規模なコーヒー産業は確立していない

栽培の可能性が考えられるのは、ボリビアやパラグアイに近いサルタ州、フフイ州など北部の一部です。これらの地域には、サトウキビ、柑橘類、バナナ、マンゴーなどを育てる温暖な環境があります。

ただし、アルゼンチン国立農牧技術院のサルタ・フフイ地域の案内では、主要作物としてサトウキビ、タバコ、豆類、穀物、柑橘類、熱帯果樹などが挙げられていますが、コーヒーは代表的な作物に含まれていません。

参考:アルゼンチン国立農牧技術院「Centro Regional Salta-Jujuy」

個人農園や小規模な試験栽培の可能性まで否定するものではありませんが、少なくともブラジルやコロンビアのような輸出産業としては捉えにくい状況です。

「アルゼンチン産」と表示された商品を見つけたら、州名、農園名、生産者、品種、収穫年まで確認すると信頼性を判断しやすくなります。

第3章 アルゼンチンコーヒーの味に共通した特徴はある?

「アルゼンチンのコーヒーは濃くて苦い」と紹介されることがありますが、国名だけで味を決めることはできません。アルゼンチン国内で販売されるコーヒーには、さまざまな国から輸入された豆が使われているためです。

ブラジル産を中心としたブレンドなら、ナッツ、カカオ、穀物を思わせる香ばしさが出やすくなります。コロンビア産が多ければ、穏やかな酸味、キャラメルのような甘さ、ほどよいコクを感じる可能性があります。

複数国の豆を組み合わせたブレンドでは、配合と焙煎度によって味が変わります。同じアルゼンチンのブランドでも、商品ごとの違いは小さくありません。

味を決めるのは豆の産地だけではない

コーヒーの味には、原産国、品種、精製方法、焙煎度、鮮度、挽き方、抽出方法が関係します。なかでも初心者が確認しやすいのが、豆の原産国と焙煎度です。

浅煎りでは酸味や果実感が出やすく、中煎りでは甘味・酸味・苦味のバランスを確認しやすくなります。深煎りになるほど苦味、香ばしさ、コクが強くなります。

味を予想するときは「アルゼンチン」という国名より、豆の原産国、ブレンド内容、焙煎度を優先してください。

コーヒーを丁寧に淹れている様子

第4章 アルゼンチン特有の「トラード」とは?

アルゼンチンのコーヒーを選ぶとき、特に注意したいのが「トスタード」と「トラード」の違いです。

通常焙煎のコーヒーは「Café tostado」と表示されます。日本で一般的に販売されている焙煎豆と同じように、熱を加えて豆本来の香りや風味を引き出したものです。

一方の「Café torrado con azúcar」などは、焙煎中に糖類を加え、カラメル化させながら仕上げた商品です。アルゼンチンの食品規則でも、通常焙煎と糖類を使うトラードは別のものとして定義されています。

参考:アルゼンチン食品法 第15章

見た目と味はどのように違う?

トラードは表面が黒っぽく、つやが強く見えることがあります。焦がした砂糖を思わせる香ばしさ、はっきりした苦味、甘苦い余韻が出やすいタイプです。

糖類を使っているからといって、飲んだ瞬間に砂糖入りコーヒーのような甘さを感じるとは限りません。苦味や焦げた香りが重なり、甘さよりも濃さを強く感じる場合があります。

ミルクを加えても香ばしさが残りやすいため、カフェ・コン・レチェには合わせやすい一方、産地固有の繊細な酸味や香りを確認したい人には向かないことがあります。

表示意味選ぶ目安
Café tostado通常焙煎豆本来の味を確認したい人
Café torrado con azúcar糖類を加えた焙煎濃い香ばしさや甘苦さが好きな人
En grano豆の状態挽きたての香りを楽しみたい人
Molido粉の状態ミルを持っていない人

豆そのものの味を知りたい初心者は、まず「Café tostado」と表示された通常焙煎を選ぶと比較しやすくなります。

第5章 実際に飲むとどのように感じる?

アルゼンチンで販売されるコーヒーの印象は、通常焙煎かトラードか、使用豆の原産国、焙煎度、ブラックかミルク入りかによって変わります。

通常焙煎をブラックで飲む場合

ブラジル産を中心にした中煎りから深煎りのブレンドでは、ナッツやカカオを思わせる香ばしさ、穏やかな苦味、丸い口当たりを感じやすいでしょう。コロンビア産などが加わると、やさしい酸味やキャラメルのような甘い印象が出ることがあります。

熱いうちは苦味が目立っても、少し冷めると甘味や酸味が分かりやすくなる場合があります。最初の一杯は、熱い状態と温度が下がった状態の両方を確かめてください。

トラードを飲む場合

トラードは、通常焙煎よりも焦がした砂糖のような香ばしさと強い苦味を感じやすいタイプです。飲み慣れていない人は、ブラックでは重い、焦げたように感じることがあります。

一方、ミルクを加えると苦味がやわらぎ、カラメルやカカオを思わせる風味を感じやすくなります。濃いコーヒーが好きな人にとっては、ミルクを入れても味が弱くなりにくい点が魅力です。

レビューを見るときは、商品名、原産国、焙煎方法、抽出器具、ブラックかミルク入りかまで確認しましょう。

複数のコーヒーを飲み比べて味を比較している様子

第6章 初心者が購入前に確認したい3つのポイント

1.豆の原産国と製造国を分ける

「Origen」「País de origen」は原産国を確認する手掛かりです。「Elaborado en Argentina」や「Tostado en Argentina」は、アルゼンチンで製造または焙煎されたことを表します。

ブラジル産の生豆をアルゼンチンで焙煎した商品は、アルゼンチンのブランドではあっても、豆の原産国はブラジルです。

2.トスタードかトラードかを見る

ブラックで豆本来の味を確認したい人は通常焙煎、濃い香ばしさをミルクと楽しみたい人はトラードを候補にします。どちらが上質という違いではなく、求める味が異なります。

3.焙煎度・焙煎日・豆の状態を見る

初めてなら通常焙煎の中煎りから中深煎りが比較的選びやすいでしょう。焙煎日が確認でき、100~200グラム程度で試せる商品なら、味が合わなかった場合の負担も抑えられます。

原産国が明記された通常焙煎、中煎りから中深煎り、少量パックを最初の基準にすると失敗を減らせます。

第7章 アルゼンチンコーヒーが向いている人・向いていない人

アルゼンチンで見られる深めのブレンドやトラードは、香ばしく濃いコーヒーが好きな人、ミルクを加えて飲みたい人に向いています。

普段から深煎りのブラジル、エスプレッソ用ブレンド、イタリアンローストなどを選んでいる人は取り入れやすいでしょう。朝食や甘い菓子と合わせる飲み方にも向いています。

一方、花や柑橘を思わせる華やかな香り、果実のような明るい酸味、農園ごとの違いを楽しみたい人は、深煎りやトラードを避け、原産国、地域、品種、精製方法まで明記された通常焙煎を探してください。

好み選び方
苦味とコクを重視中深煎りから深煎りのブレンド
ミルクを多く加える深煎りまたはトラード
豆本来の味を知りたい原産国が明記された通常焙煎
華やかな酸味を楽しみたい浅煎りから中煎りの単一産地豆

第8章 初心者向けのおいしい淹れ方

通常焙煎をハンドドリップで淹れる

中煎りから中深煎りなら、豆15グラム、お湯240グラム、湯温88~92度、中挽き、抽出時間2分30秒から3分を出発点にします。

  1. フィルターへお湯を通し、器具とカップを温めます。
  2. 30~40グラムのお湯を注ぎ、30秒程度蒸らします。
  3. 粉の中心から円を描くように、数回に分けて240グラムまで注ぎます。
  4. 抽出後のコーヒーを軽く混ぜ、濃度を均一にします。

苦味が強い場合は湯温を2~3度下げるか、挽き目を少し粗くします。酸っぱく薄い場合は、挽き目を少し細かくしてください。

トラードは低めの湯温から試す

トラードは、豆13~15グラム、お湯220~240グラム、湯温85~88度、中挽き、抽出時間2分から2分30秒を目安にします。長く抽出しすぎると苦味や重さが増しやすいため注意します。

ブラックで重く感じる場合は、抽出したコーヒーと温めたミルクを1対1で合わせます。コーヒー感を強めるなら2対1、やさしくするなら1対2へ調整してください。

最初から砂糖を加えず、ひと口飲んでから甘さを調整すると、商品の特徴を確認しやすくなります。

第9章 アルゼンチンのコーヒー豆はどこで買える?

アルゼンチン産と明確に表示されたコーヒー豆は、日本で一般的に流通している商品ではありません。一方、アルゼンチンのブランドや、現地で焙煎された商品は、南米食材店、輸入食品店、オンラインショップなどで見つかる可能性があります。

購入先の知名度だけでなく、豆の原産国、ブレンド内容、通常焙煎かトラードか、焙煎度、内容量、製造日または焙煎日を確認してください。

初めての商品は100~200グラム程度から試します。特にトラードは好みが分かれやすいため、割安でも最初から大容量を選ばないほうが安心です。

「アルゼンチンの有名ブランド」「本場の味」としか説明されていない場合は、販売店へ原産国と焙煎方法を確認しましょう。

コーヒーをテイスティングして味を確かめている様子

第10章 よくある質問とまとめ

アルゼンチン産の豆は日本で買える?

国内栽培が明確な豆は広く流通していません。「アルゼンチンコーヒー」という商品名だけでなく、豆の原産国表示を確認してください。

アルゼンチンコーヒーは苦い?

国名だけでは決まりません。深煎りやトラードは苦味が強くなりやすい一方、通常焙煎の中煎りなら穏やかな酸味や甘味を感じられる商品もあります。

トラードは砂糖を入れなくても甘い?

焙煎時に糖類を使いますが、飲んだときにはっきり甘いとは限りません。カラメル化による香ばしさや焦げたような苦味を強く感じる場合があります。

ブラジル産やコロンビア産との違いは?

ブラジルコーヒーやコロンビアコーヒーは、基本的に豆の生産国を示します。一方、アルゼンチンコーヒーは、輸入豆を国内で焙煎した商品や現地の焙煎文化を指す場合があります。

アルゼンチンのコーヒーを選ぶときに重要なのは、豆の原産国と製造国、通常焙煎かトラードか、焙煎度と鮮度の3点です。

珍しい国名だけで選ばず、表示を読み、自分がブラックとミルク入りのどちらで飲みたいかを考えて選びましょう。

最初は少量の商品を選び、ブラック、ミルク入り、少し冷めた状態の3通りで味を確かめます。そこで感じた苦味、甘味、酸味、香ばしさを覚えておくと、次の一袋を選びやすくなります。